ヒップホップダンスは決められた曲を一組ずつ順番に踊っていく。
 ノリのいい曲に合わせて人が動くわけだけど、ダンスというものがこんなにも見て楽しめるものだとは思わなかった。そして、次か次か、と黒組の番を待ち望む。すると、
「御園生さん、写真撮らなくていいの?」
 真咲くんに言われて座席下にしまっていたカメラを思い出した。けれど、
「残念ながら、応援合戦の写真を撮る許可しかもらっていないの。それに――」
 写真を撮るよりも見ていたい。見ること以外に神経を使いたくない。
 さらには、静止画よりも動画の記録が欲しいし、素人の自分が録るものではなくプロが録ったものが欲しい。
 しかも、それは何をせずとも紫苑祭が終わって編集が済めば全校生徒に配られるのだ。
 ダンス競技の順番は、それまでの競技で最下位だった組から行われる。
 桃組から順に踊っていき、ラスト二組で赤組の出番。
 男子のみで編成されている組はダイナミックな動きやステップが多く、女子のみで編成されている組は女性らしさを前面に出す動きが組み込まれていた。男女混合だった青組は、女子をエスコートするようなプログラム。対して赤組は、男女混合の編成だけれど男女関係なく同じ動きをするプログラム。
 ただし、男子と女子の身長は揃えてあって、男子は一八〇センチ以上、女子は一六〇センチ前後。完成度の高いユニゾンを披露し、高得点が狙えそうな気がしていた。しかし、黒組のダンスを見て叩きのめされた気がしたのは私だけではないと思う。
 黒組は男子のみの編成だったものの、身長も体型も揃ってるうえ、うちの組を上回るシンクロを見せた。
「揃う」とはこういうことを言うのか。
 タイミングが揃っているのは最低限の項目で、手を上げる高さから角度、ステップを踏む歩幅からジャンプする高さ、何から何まで皆が同じ動作をする。「個」をまったく感じさせない動き。
 逆に、同じ動きに個性を盛り込んだ組もあったけれど、これはなんというか――「格好いい」などという言葉だけでは済まされない。緻密なまでに神経が張り巡らされた演技だった。
 応援団の練習もあっただろうし、ほかの競技の練習だってあったはず。黒組のこのメンバーは、ダンスにどれだけの時間を費やしてきたんだろう。
「キャー」とか「ワー」とか女子の黄色い声も凄まじかったけれど、感嘆のため息をついた人も多々いるはず。
 この数分間、何度瞬きができたか怪しい限りだ。
 目の渇きを感じつつも目を離すことはできなかったし、目深にかぶるキャップ帽を恨めしく思うほど、どんな表情で踊っているのかが知りたかった。