それにしても、メガネをかけていないツカサは新鮮だ。
 メガネをかけているからインテリっぽく見えるのかと思っていたけれど、メガネをかけていなくても知的な雰囲気は損なわれない。「端麗」という言葉が恐ろしいほどしっくりくる顔だと思う。
 やっぱり、格好いいな……。
 サラサラの黒髪ストレートが好きだし、一見して冷ややかに見える切れ長の目も好き。
 すっと通った鼻に薄い唇。陶器のような白い肌――。
 うっかりさっきの半裸姿を思い出して頬が熱を持つ。
 思わず視線を逸らしてしまったけれど、めったに見られない合気道姿はじっくりと見ておきたい。
 そろそろと視線を戻したけれど、直視することはできず、控えめに窺い見るのがやっと。
 まだ触れたことのないあの頬に、いつか触れることができるだろうか。
 きっと、すべすべなんだろうな……。
 自分の頬はどうだろうか、とふと思い立ち頬に手を添える。と、キスのときに添えられたツカサの手を思い出した。
 ……私、ツカサの手も好きだ。
 考えてみたら、私、ツカサの手しか触ったことないかも……?
 あとは腕、くらい……?
 いつか、私も頬に手を伸ばせるだろうか。
 自分がツカサの頬に手を伸ばす様を想像したら、あまりにも恥ずかしくてハタハタと手で顔を仰ぐ始末。
 私、何考えてるんだろう……。ちゃんと応援しなくちゃ。
 深く息を吸い気を取り直したときにはツカサの試合は終わり、対戦相手と礼をしているところだった。
 顔を上げたツカサと視線が合ってびっくりする。
 大好きだけど、あの目はちょっと心臓に悪い。
 何を考えていたのか見透かされてしまう気がして。
 咄嗟に視線を逸らしてしまったけれど、はたと気がつく。
 目が合った――?
 赤組の観覧席からツカサのいる場所までざっと見積もってもニ十――いや、三十メートルは離れている。なのに、目が合った……? メガネをかけてもいないのに……?
「翠葉、どうかしたの?」
「今、ツカサと目が合った気がして……」
「まさか。ここからあそこまで三十メートルちょっとはあるわよ?」
「……そうだよね。私の勘違いかも……?」
 美乃里さんと香月さんにも「勘違い」だと笑われてしまったけれど、でも――と思う自分がいる。
 だって、本当に目が合った気がしたのだ。