お昼休みを挟めば午後はほとんどが個人競技。
 フェンシング、柔道、空手、合気道、剣道――。
 これらは体育館をふたつのスペースに区切り、ふたつの競技を同時進行で行っていく。
 フェンシングの召集がかかると、桜林館の一箇所が急激に沸き立った。
 理由はすぐに判明する。朝陽先輩だ。
 剣を携えマスクを小脇に抱える様は、さながら中世の騎士のよう。
「いつもに増してすごい声援……」
 そんな言葉を漏らすと、桃華さんがクスリと笑った。
「朝陽先輩、インターハイは逃しているけど、県でのランキングは上位なのよ?」
「本当の王子様みたい……」
「確かに。あの格好で微笑まれたらファンの子たちはたまらないわね。しかも、闘う姿も優雅ときてるわよ」
 その言葉のとおり、試合は「美しい」の一言に尽きた。
「桃華さん、インターハイは逃してるけど……って、朝陽先輩、フェンシング部なの?」
「そうよ。知らなかった?」
「うん……」
 部活が強制参加であることは知っていたけど、まさか運動部に所属しているとは思いもしなかった。
 なんというか、部活で汗を流しているところが想像できないし、ESSとか演劇部と言われたほうがしっくりっくる。 
 そういえば、一年のときにいただいたブロマイドの一枚がフェンシングをしている写真だったっけ……。
 あぁ、あれが部活姿なのか……と今さらながらに納得する。
「あ、翠葉ちゃん、右のフロアで藤宮先輩の試合が始まるよ!」
 美乃里さんに言われてそちらへ視線を向ける。と、白い胴衣に黒い袴を履いたツカサが立っていた。