本部に近い階段から観覧席へ戻ると、顔なじみの女の子を見つけてほっと胸を撫で下ろす。
 私の姿を見つけた桃華さんは、
「ったくあの男、翠葉だけには甘いのよね。蒼樹さんにしても藤宮司にしても、ちょっと過保護すぎて高校卒業後の翠葉が心配になるわ」
 呆れたような視線に情けない苦笑を返すと、
「まだ一回戦が終わっただけだから、全試合終わるまで座ってなさい」
 その言葉にコクコクと頷き、私は上履きを脱いで椅子に上がりこむ。
 膝を抱え下を向くことで視界をシャットアウトすると、ようやく安心して呼吸をできる気がした。
 そんな状況の私に声をかけてくれたのは香月さん。
「御園生さん、お兄さんふたりもいるのに免疫ないの?」
 尋ねられて困ってしまう。
「確かに兄はふたりいるのだけど、家で半裸になっていることなんてないもの……」
 右隣の席に掛けていた香月さんの方を向くと、
「お風呂上りでも?」
 あまりにも「意外」と言った顔をされるので、
「うん、お風呂上りでも。夏でも上にはランニングかTシャツは着てるよ?」
「……うちの兄とは大違いね。うちなんて、夏になったらトランクス一枚で家の中うろついているわよ?」
 驚きに言葉を失っていると、
「この学校の生徒の家がどうかは知らないけど、世間一般じゃ割と普通のことだと思うわ」
 そんな普通は知らない……。
 思わずフルフルと顔を横に振ると、
「あぁ、ほら。敗退した組の男子が戻ってきたわ」
 私はありがたい忠告の末、再度視界をシャットアウトした。