今まで女の子の団体をかわいいと思ったことなど一度もなかったけれど、元気良く踊る彼女たちの笑顔は眩しく見えて、もしも自分があの中に加われたら……なんて、今まで考えたこともないようなことまで頭に浮かんだ。
 でも、自分の身体をフルに使い、複数人でタワーを作る競技にはどうやっても加われそうにない。
 演技の途中で痛みが生じ、少しでも身体が逃げればすべてのバランスが崩れ、上に乗る人が落下してしまうのだ。
 それ以前に、体力や持久力がものを言う競技でもある。
 体育祭の競技とはいえ、競技の練習に入る前には走りこみやストレッチ、筋トレまでしているのだから、おいそれと「参加したい」などと思ったり言ったりできるものではない。
「どうやっても無理……」
 ポロリと零した言葉を海斗くんに拾われた。
「何が無理?」
「えっ、あ――」
 とくに隠すようなことじゃないけれど、ほかの人が話すには問題のないことでも、私が話すと自虐的な話になってしまいそうで、なんとなく口にしづらい。
「翠葉もチアリーディングやりたくなった?」
 気遣うニュアンスを一切含まない声音に、思わずコクリと頷く。
 頷いてから後悔が襲ってきて、咄嗟に口が開いた。
「でも、痛みが生じたらほかの人に迷惑かけちゃうから――」
「まぁね。体力とかあれこれ総合的に考えて無理かもしれないけど、翠葉が参加するとしたらハイトップだと思うぞ?」
「ハイトップ……?」
「そっ。翠葉、バランス感覚いいし軽いだろ? そういう人間はタワーのトップ、ハイトップになるはず」
 たぶん、これからの人生で私がチアリーディングに参加することはないだろう。でも、「もしも」の想像をとても普通に、いとも簡単にしてもらえたことが嬉しくて、焦り惑った気持ちはどこかへ行ってしまった。
「翠葉は俺たちと一緒にワルツがんばろうよ」
「うん。そうする」
「じゃ、俺、一端観覧席へ戻るわ」
 そう言うと、海斗くんは本部席から出てフロアを駆けていった。