黒組はフロア中央に整列しており、各組の団長副団長はそれと向かい合うように整列する。その間は約五メートル。
 一列目に団長が並び、二列目に副団長がずらりと並ぶ。二列目にいる私から測っても、ツカサまでの距離は七メートルもないだろう。
 場所的に、ツカサの姿は前列に並ぶ団長たちの合間から見える程度。
 観覧席からなら何に阻まれることなくツカサが見えたはず。けれども、長ラン姿のツカサは格好良すぎるから、ダイレクトに見えるより、物陰から見えるくらいがちょうどいい。
 辺りが静まり硬質な空気が漂う中、
「校歌、斉唱っ」
 ツカサの号令が桜林館に響き、大太鼓が三つカウントしてから校歌が歌われた。
 昨日は組作成の応援歌だったわけだけど、今日は全校生徒――すべての組を分け隔てなく応援するため、自組を応援する内容の応援歌は校歌に差し替えられたのだ。
 校歌が終わると、陣形を新たにエールへと移行する。
「各組の健闘を祈って、エールを送るっ」
 昨日グラウンドで聞いたものとは違う。天井の高い館内に高らかに響くそれを聞いて、思わず鳥肌が立つ。
 普段話すときに聞く声とは違うし、電話から聞こえてくる声とも違う。マイクを使わず声を張る姿をこんなに間近で見たのは初めてだった。
 そんなふうに思ったのは私だけではないのだろう。
 ツカサの声を消すような大きな歓声こそ起こらないものの、観覧席は女の子を中心にざわめいている。
 さらには、黒組には校内で二番人気の朝陽先輩もいるのだから、ざわめかないわけがないのだ。
 ツカサは組ごとにエールを送り、淡々とその場を締めた。