学校へ着くと、桜林館の中に本部を作るところから準備が始まる。それでも、昨日と比べると競技に必要とされる用具が少ないこともあり、それほど時間はかからず準備が整った。
 手の空いた生徒は組の観覧席へ向かう人もいれば、桜林館の出入り口に設置されている投票機に向かう人もいる。
 私は後者だった。
 昨日行われた応援合戦やモニュメントの投票を八時半までに終えなかった場合、無投票と見なされてしまうのだ。
 黒組が一位であることを祈りながらタッチパネルの操作をしていると、ディスプレイに影が差した。
 不思議に思って顔を上げると、
「黒組へのご投票、誠にありがとうございます」
 投票機の傍らに王子スマイルの朝陽先輩が立っていた。
 きっと、投票機に不具合がないか見て回っていたのだろう。
「投票率もいい感じ。職員の投票は全員終わってるから、あとは生徒オンリー」
 タブレットを見ながら話しているということは、そこに順位も表示されていたりするのだろうか……。
 タブレットに釘付けになっていると、
「……気になる?」
 私はコクコクと首を縦に振る。
「見る?」
「……だめじゃないです?」
 朝陽先輩はクスクスと笑い、
「生徒会メンバーにまで秘密にする必要はないよ」
 朝陽先輩はテラスへ出るとタブレットを見せてくれた。そこには投票状況が表示されていて、数秒ごとにグラフや数値が変化する。
 モニュメントへの投票はどこが抜きん出ている、という感じは受けないものの、応援合戦の投票は黒組がダントツ一位。
 ほっとした私は胸を撫で下ろす。と、
「あれ? 赤組の応援はいいの?」
「……えぇと、赤組の応援はしているのですが、黒組の応援はもう一度見たくて……」
「ふ~ん。司、格好よかったもんね?」
 にっこり笑顔を向けられ、うっかり「はい」と答えてしまった自分に慌てる。
「あはは、相変わらず翠葉ちゃんは正直だね」
 朝陽先輩はテラスの手すりにもたれかかるようにして笑いだす。
「……今の、内緒にしてくださいね?」
 辺りに誰もいないか見回すと、
「ご心配なく。あっちもこっちも浮き足立っててそれどころじゃないよ」
 朝陽先輩が視線を向けた先には男女の姿。
 ふたりとも顔を真っ赤にして俯いたまま話している。
「たぶん、後夜祭の申し込み。ほら、あそこもそうじゃない?」
 振り向くと、十数メートル先にも真面目な顔で話をする男女がいた。
「たいていは前日までに申し込むものなんだけど、当日駆け込み組もちらほらいるよね。じゃ、俺は仕事に戻るね」
 朝陽先輩は軽く手を上げ桜林館へと戻った。
 私は改めて辺りを見回し、なんとなしに空を見上げる。
「……みんなが登校するまではもつといいのだけど――」