ツカサはひどく困惑した表情で、
「……それ、話した末に理解されなかった場合、どうなるわけ?」
「え……?」
「……だから、考えとかその他もろもろ、話した末に理解されなかった場合、どうなるのかを知っておきたい」
「え? それは……――ツカサと同じだよ」
「同じ……?」
「ついさっき、言ってくれたでしょう? 『価値観の違い』があったとして、私の価値観が理解できなくても認めないわけじゃないし、わかろうとしないわけでもないからって……。それと同じ。知らないことは知りたいと思う。でも、知って理解できないからって嫌いになるわけじゃないよ?」
 言った直後、ツカサの白い肌が一気に赤くなった。
 驚きのあまりに目を見開く。と、次の瞬間にはツカサに引き寄せられ抱きしめられていた。
 パニックを起こしかけた自分を落ち着け、
「……どうして、赤面したの?」
 小さく問いかけたものの、返答はない。
 いつもなら即答、もしくは数秒で切り返しがきそうなものだけど、無言が続くのは――。
 説明するにできない心境? それとも、それほどまでに余裕がないのだろうか。
 何にせよ、ツカサの赤面なんてそうそう見られるものではない。
 しっかりと抱きしめられていてツカサの顔を見るのは容易ではないけれど、なんとかして見られないものか、と顔を上げることを試みようとしたそのとき、
「今の、忘れるなよ?」
「え?」
 小さすぎた呟きが聞き取れずに訊き返す。と、
「今の、忘れるなよ?」
「今の、ってどの部分? 赤面?」
 力のこもっていた腕が少し緩み、至近距離で笑みを向けられる。
 紅潮した頬はすでに白く戻っており、久し振りに氷の女王様を拝んでしまった。
 距離が距離なだけに迫力満点だ。
「知って理解できないからって嫌いになるわけじゃない、って部分」
「……そんな凄むような笑みを向けられなくても忘れないよ?」
 私は笑いながら返したけれど、態勢を立て直したツカサは余裕ありげな表情で、
「翠はまだ、俺の性癖を知らないだろ?」
「え……? ……せい、へき……?」
「そう。性格の性に癖と書いて性癖」
 ツカサが口角を上げたかと思うと腕は解かれ、あっさりと解放された。そして、何食わぬ顔で歩き始める。
「えっ!? ツカサっ!? ちょっと待ってっ!?」
 いつもは待ってくれるのに、こんなときばかり長い脚を駆使してスタスタと行ってしまう。
「待ってってばっ!」
 傾斜に任せて足を踏み出そうとしたそのとき、三メートルほど先を歩いているツカサが振り返り、「走るなよ」とにこりと笑って釘を刺された。