「超絶司っちらしい」
 唯兄はくつくつ笑ってこう付け足した。
「もし俺が司っちと同じように彼女に知らせず受験したとしても、合格した時点で種明かしはするよね。『聞いて驚け!』的な感じでさ」
 唯兄の言うそれは、いたずらみたいな要領だろう。
「受験」ですら「いたずら」にしてしまうあたりがとても唯兄らしい。そして、「受験」をものともしないあたりはツカサ寄りな気がする。
 お父さんとお母さんは、 「藤宮っぽい」「静と似たり寄ったりね」と笑うだけ。
「俺は話す派。話すから何ってわけじゃないけど、『がんばって』って言ってもらえたら嬉しいし、受験前は電話やメールも頻繁にはできないだろうから、そういう事情を把握してもらう意味も含めて」
 蒼兄の意見が自分に一番近い気がするけれど、それは同じ環境で育ったからなのかな。
 それなら、ツカサと似た環境で育った秋斗さんはどう考えるだろう――。
 そう思ったとき、蒼兄が同じような質問を秋斗さんへ向けた。
「非常に残念なんだけど、俺は司と同じ行動を取った気がしてならない……。そっか、そういう話はしてほしいんだ?」
 尋ねられ、私はコクリと頷いた。
「そっかそっか……。あのさ、自分や司をフォローするわけじゃないんだけど、司は翠葉ちゃんを軽視して伝えなかったわけじゃないよ。ただ、受験ってものをそこまで特別視していないだけなんだ。その都度試験はあったけど、幼稚舎からずっと藤宮で、大学も藤宮。受験はただの通過点であり、受ければ受かるのが当然だと思ってるっていうか……」
 同じようなことをツカサも言っていた。
 そのときは呑み込むのが難しかったけれど、今は呑み込める気がするから不思議だ。
 ……複数の意見になったから? それとも、第三者の言葉だから?
 もしくは、少し時間が経ったからだろうか。
「俺と司、そこら辺の価値観は似てると思う。だから、何かあったら俺のところに訊きにおいで。こんな解説ならいくらでもしてあげるよ」
 そう言ってにこりと笑みを向けられたけれど、笑顔につられて「はい」と答えてはいけない気がした。
「……翠葉ちゃん?」
「えっ、あっ――あの、お気持ちだけありがとうございます」
「どうして?」
「そりゃ、こんなことで毎回秋斗さんに泣きついてたら、司っちの機嫌損ねちゃうじゃん」
 唯兄の言うことは一理ある。でも、それだけではない気がした。
 こういうのは、ツカサの口から聞くことに意味があるような、そんな気がしたのだ。