仙波先生との電話を終えてダイニングへ行くと、テーブルを囲んでいた五人に「おかえり」と迎えられた。そして、にっこりと笑った秋斗さんはこんな言葉を追加したのだ。
「目は充血してるし若干鼻も赤い。いかにも泣きましたって顔なのに、どうしてそんな嬉しそうなの?」
「それ、俺も知りたい。帰ってきたときからすんごい嬉しそうな顔してたんだけど、間違いなく泣いたあとっぽかったから不思議でさ」
 ふたりの指摘に恥ずかしくなり、私の頬は一気に熱を持った。
 泣いた原因がツカサなら、嬉しい理由もツカサ。
 間に仙波先生との電話を挟んでも、私の表情は「嬉しい」のままだったらしい。
 まだ応援合戦の結果は出ていないけど、黒組が一位だったらツカサの雄姿を再び見ることができるし、応援姿を堂々と撮ることができるのだ。しかも、交換条件はなし。
 こんな機会はそうそうないし、意識してもしなくても、顔の筋肉を思い通りに動かせる自信は微塵もない。どうしたって緩んでしまうというもの。
「司と何かあった?」
 秋斗さんの声に我に返り、少し考える。
 嬉しい理由はツカサの写真が撮れるから。なら、どうして写真を撮れることになったのか、という部分は泣いてしまった理由とイコールになるわけで……。
 とくだん隠すようなことではない。でも、もしもみんながツカサと同じ意見で、「そんな些細なことで泣いたの?」と思われるのだとしたら、少し恥ずかしい気もする。
 それと同時に、「受験」というものを前にしたとき、ほかの人ならどういう行動を取るのかが知りたいとも思う。もし、私と同じ立場だったらどう思うのか――。
「言えないようなこと?」
 秋斗さんに尋ねられ、私はフルフル、と首を横に振った。
 ラグに腰を下ろし、ツカサとの「受験」にまつわる話をしてみると、その場には苦笑いしか生まれなかった。