ツカサは何か考えているような表情で数メートル先に視点を定めていた。顔を上げたかと思うと、
「交通手段はバスと電車?」
「そのつもりだけど……」
「なら、俺に送迎させて」
 突然の申し出に反応できないでいると、
「紫苑祭明け、立て続けに外出予定を入れるんだろ? 行き帰りくらい体力温存に努めたら?」
「それなら家族に頼むっ」
 いくらなんでもツカサに送迎してもらうのは申し訳ない。
「……俺が翠に会いたいだけなんだけど」
「……え?」
「藤山の紅葉は、ゆっくり見て回っても二時間。あとは家でゆっくり休め。次の日も会えるならそれでかまわない」
「…………」
「返事」
「……ありが、とう……」
「どういたしまして」
 私は少しびっくりしていた。
 付き合って数ヶ月が経つけれど、「会いたい」などと言われたことはないと思う。
 私、幻聴を聞いたのかな……?
 そんなことを考えていると、
「……昨日、御園生さんと唯さんに何か話した?」
「え……?」
「あのふたりに限って、翠が泣いたことに気づかないわけがないだろ」
 それはつまり、泣いたことに気づかれて、私が詳細を話したか、ということだろうか。
 まじまじとツカサの顔を見つめると、「正直に」と即座に返答を求められた。
「はい。ごめんなさい……」
「別に謝らなくてもいいけど……」
 そうは言うけれど、ツカサはひどくうんざりした顔をしている。
「だめ、だった……?」
「だめじゃない。けど……面倒くさい」
「え? 面倒……?」
 ツカサはひとつため息をつき、
「次に唯さんと御園生さんに会ったときのことを考えると面倒でならない」
 それはそれは煩わしそうに零す。
 たぶん、唯兄に絡まれるとか蒼兄につるし上げられるとか、そういったことを懸念しているのだろうけれど――どうしよう……。
 実のところ、その場には蒼兄と唯兄だけではなく秋斗さんもいたし、お父さんやお母さんも揃っていた。