待ち合わせ五分前に一階へ下りると、すでにツカサが待っていた。
「ごめんっ」
 慌てて駆け寄ると、いつものように怒られる。
「走るな」
「でも、ほんの数メートルだもの」
「距離は関係ない。それに、待ち合わせに遅れたわけじゃないだろ」
「そうだけど――」
 ツカサが待ち合わせ時間ぴったりに下りてきてくれたならこうはならないと思う。でも、ツカサの考えがそこにいたることはなさそうだ。
「ごめんなさい……。……おはよう?」
 機嫌をうかがうように朝の挨拶を口にすると、
「はい、おはよう」
 儀礼的なそれに不満を覚えつつも手をつないでもらえたことが嬉しくて、私は「いってきます」とコンシェルジュに声をかけてエントランスを通り抜けた。

 外に出た途端、突風に髪を巻き上げられる。
 雨はまだ降っていないものの、風はそれなりに吹いているらしい。
 こんなことなら髪を結ってくれば良かった。
 うっかり後悔する程度には、髪が風にもてあそばれている。
 片手で格闘し、なんとか押さえつけることに成功すると、
「体調は?」
 ツカサの体調チェックが始まった。
「……こんな天気だからね、ちょっと痛い。でも、ひどく痛むわけじゃないから大丈夫」
「本当に?」
「嘘はつかない」
「……無理はするなよ」
「うん」
 話の流れは昨日と変わらない。そして、会話がここで終わってしまうのもいつものこと。
 いつもなら、手をつないでいることに満足して無言で歩き続けるわけだけど、今日は話すことがある。むしろ、話さなくてはいけないことがある。
 これは昨夜帰宅してからのこと――。