彩はいなくなった。
引っ越してからはまだそれが事実なのか、小学六年の裕也には分からなかった。裕也の暮らす山間のこの田舎町には裕也と彩の思い出の場所は多すぎた。公園の中に、学校の校庭に、通学路の途中の駄菓子屋に、自分の部屋の窓に…。 サッカーの試合中もつい観客の中を探してしまう。まだいそうな気がする。どこかから笑顔で現れそうな気がする。ただ彩からもらったキーホルダーを見るたび、それが彩はもうこの町にいない証の様に現実を突きつけられる。裕也は泣いた。隣の明かりのついていない家を見るたび、切なかった。彩の部屋の窓ガラスを叩いても、窓ガラスが開くことはなかった。