日里さんのお店を出た後、すぐに繋がれた私たちの手。
指と指を絡ませあうことにも、慣れてしまった。
今日は、絶えずお互いの体温を感じながら過ごしているけれど、紬さんが差し出す手に、自然と私の手も伸びていく。
習慣めいたものが生まれたように思えて嬉しい反面、不安も感じるけれど、それを拒めない気持ちも確かにある。
それに、さっきお店でキスをされて、そして何度も結婚すると言われてしまったあとともなれば、その手を取りたくなるのも仕方がない。
時折私を見ながら「人にぶつからないようにもっと近くに寄れ」だとか「車じゃなくて悪いな。このあたりは駐車場も少ないんだ。だから電車の方が動きやすいから」と話しかけてくれる紬さんと言葉を交わし、ゆっくりと歩く。
紬さんのような立場の人ならば、車で動く機会の方が多いように思えるけれどそうではないらしく、通勤も電車だと教えてくれた。
将来は社長の職に就く予定だけど、今はまだ修行中の身。
お給料だって一般社員と同じで、もちろん仕事だって実力主義。
そんな話をぽつりぽつりしながら、少しずつ紬さんのことを知っていく。
「製薬会社で新薬の研究をしているけど、全ての人が健康で暮らせるための薬をつくるなんて、俺が生きているうちには無理だし」
「どうして?」
「んー。それが現実ってとこかな。研究しながらそれを実感してる。たとえ俺が社長になって研究スピードをあげても、全ての病気を治せる薬の開発なんて、難しい」
ゆっくりと歩く紬さんを見上げ、その真面目な表情にぐっと引き込まれる。
紬さんが、薬の研究開発をしていることは知っていたけれど、その内容がどういうものなのかを詳しくは知らない。
機密扱いになっているものも多いらしく、仕事について尋ねても、『忙しい』やら『人手が欲しい』といううわべだけの言葉で流される。

