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紬さんのことが好きだとは思うけれど、その理由なんてよくわからない。
確かに見た目は私の好みで、見つめられると鼓動が大きな音をたてて響く。
そして、抱きしめられた時に感じる紬さんの体温と、重ねた唇の柔らかさを教えられて、平然としていられるわけもない。
周囲からのからかうような視線に耐えながら、『ほっけ焼き定食』と『カニクリームコロッケ定食』をそれぞれ食べ終えた後、日里さんの店を後にした。
とても美味しかったけれど、私達二人の間に漂う空気が妙に甘くて、それを堪能するどころじゃなかった。
お店を出る時に「今度は瑠依さん一人でゆっくりおいでよ」と日里さんに声をかけられたけれど、紬さんとの恥ずかしいやりとりのせいで素直に頷けなかった。
紬さんに無理矢理されたことだとはいえ、大勢の人に見られながらキスをするなんて、もう二度と嫌だ。
照れくさくて俯きがちな私に、日里さんは苦笑しながらも
『強引な男だけど、将来は大きな会社の社長さんだからそうならざるを得ないっていうのもあるのよね。私の旦那も同じ立場で強気な男だけど、そういう人だとあきらめて、うまく付き合ってあげてね』
励ましなのかどうかわからない言葉をかけてくれた。
『余計なことをペラペラ話すなよ。あ、茅人によろしく言っておいてくれ』
『うん、茅人には、江坂くんがちゃーんと瑠依さんを大切にしているって言っておく』
『それが余計だっていうんだよ』
顔をしかめて拗ねた口ぶりで日里さんと話す紬さんは、普段よりも幾分子供っぽく見えて、二人のやりとりをもう少し見ていたいと思った。
二人の会話から、「かやとさん」という人は日里さんの旦那さんであり、紬さんの友達のようだ。
なんて疑問を持ちつつ、駅に向かって二人で歩いていた。

