結婚前のことだとはいえ、自分の母親が父親以外の人を愛していて、今でも尚その縁を大切にしているなんて、息子にしてみれば気分のいいものではないだろう。
けれど、目の前で笑っている表情を見れば、私と会えたことが嬉しいとしか思えない。
「母さんも、俺みたいな出来の悪い息子や紬のような思い通りにならない孫なんかより、瑠依ちゃんみたいなかわいい娘が欲しかったっていつも言ってるんだよ。な、紬」
「ああ。『和樹さんと結婚していたらかわいい女の子を授かっていたのかなあ』って悔しそうにしてる。おやじは慣れてるからそんなこと言われても聞き流してるけどさ。俺は和樹さんって人がおばあの元恋人だって知った時にはびっくりし過ぎて何も言えなかったよ」
私にしてみれば、ははっと大笑いしているお父さんのことも、信じられないけれど。
その笑顔があまりにも朗らかで、偽りではなく本心だというのは明らかだ。
それと同時に、おじい様や紬さんのご両親たちとの関係がよくわからない。
そんな私の混乱に気付いた紬さんは、私の腰に回していた手に力を入れ、ぐいっと抱き寄せた。
私の体全体が紬さんに包まれ、彼の体温が私に移されていく感覚でいっぱいになる。
この前のお見合いの時といい、社長室に押し込まれた時といい、紬さんの体温を感じる度に鼓動が大きく跳ねる。
どうしてこの人はこんなに密着してくるのだろう。
男性の人肌に慣れていない私はどう応えていいやらわからないというのに。

