だけど、足元に零れ落ちたコーヒーの粉を見れば、やっぱりここは私と紬さんの新居だし、抱きしめられた体には強い痛みを感じるし。
夢の中なんかじゃない、私たちは現実の世界で抱き合っている。
そう思いながらも、これまで私が紬さんに望んでいた思いを、もしかしたら紬さんは今、完璧に与えてくれたのではないだろうかと。
そんな感情自体現実離れしているのだけど。
とくんとくん、かなり速い紬さんの鼓動の音を聞きながら、その意味するものを察すると、さらに夢見心地になっていく。
これまで何度も、私を大切にすると、離さないと言ってくれたけれど、一度も「愛している」とは言ってくれなかった。
体をつないでいる時でさえ、絶対に言わないと決めているかのように、その言葉だけはくれなかった。
紬さんが私を愛してくれているという実感、それは何度か感じることがあった。
抱き合っている時はもちろん、出会ってから今までの短い間でさえ、その実感を与えてくれたけれど。
『愛されているはず』というのと、『愛されている』とでは大きく違ってくる。
紬さんが見せてくれる優しい表情や『大切にする』『守るから』という言葉にすがって紬さんを信じるよりも、一言『愛している』と言われる安心感の大きさ。
ようやく、その安心感が私を満たしていく。

