だからといって決して茅人さんと結婚すればよかったなんて思わない。
思うわけないのに。
第一、茅人さんに弟さんがいることなんて知らないし、テニスが得意だなんて情報、持っているわけがない。
紬さんが言うように、これから紬さんが抱える未来には、家族よりも会社を優先しなくてはいけない日々が待っていると思うけれど、そんなこと百も承知。
そのうえで、企業のトップに立つ重責を、少しでも小さくできるように、私は寄り添うと誓っている。
「紬さんが私を手放そうとしても、私はしぶとく抱き着いて離れないからね」
紬さんの背中に両手を回し、力いっぱい抱きしめる。
すると、私の言葉に答えるように呟いた紬さんの声が、私の全てを破壊する。
「瑠依を……こんなに愛しているんだ。手放せるわけがない」
「う、うそ……え……? 夢?」
「嘘なわけないだろ? だけど、夢なら面倒なことは放り出して、ずっとこうして抱き合えるのにな。
愛してる女をずっと抱きしめていられるなら、夢の中にずっといるのも悪くない」
「わ、悪くないっ。っていうか……どうして今愛してるなんて、言うのかな……」
次第に小さくなる自分の声。
紬さんに届いただろうかと思いながらもそれ以上言葉にできなくて、胸に広がる感情をどう整理すればいいのかと、呼吸も苦しい。
まるでここは私が欲しいものがすべて手に入れられる、そんな世界のような。

