「く、くんねーしって言われても」
「そりゃあ、茅人のほうが女には優しいし、将来は会社を背負うっていっても弟がいるから仕事の分担もできて結婚してもプライベートな時間は作りやすい。
だから結婚したあとも二人でいちゃこらする時間も多いだろうし。
あ、茅人はテニスもうまいんだよなあ、夏にはどっかの避暑地のテニスコートでおしゃれな時間も過ごせるし……逆に、俺にはこの先、瑠依と一緒にのんびり過ごせる時間をそれほど作れるのかどうかもわかんねーし。
だからまあ、茅人と結婚したかったって瑠依が思ったとしても仕方ねーけど。
だ、だけどな、俺はもう瑠依と別れるつもりもねーし、他の男に譲るつもりもねーから」
「……あの、紬さん?」
普段の紬さんからは想像できない饒舌な様子に驚いた。
言葉遣いまで違ってるような気がするし、まるで何かに追われているようだ。
「それに、瑠依が今更茅人がいいって言っても、あいつはもう日里と結婚してるし、瑠依だって俺の戸籍に入ってるんだから、逃げられないからな」
「逃げるなんて……」
そんなこと、あり得ない。
逃げろと言われても、逃げるつもりもない。
私は、絶対に別れねーしとぶつぶつ言う紬さんの声をふわふわした心地で聞いている。
紬さんって、意外に子供っぽいんだな……。
私が紬さんの顔をまともに見ることができないのは、茅人さんと紬さんを比べたからじゃないのに。
これまで知らなかった事実に驚かされて、それに、茅人さんがだめだったからという理由だけで持ち込まれた私との結婚を、紬さんがどんな思いで受け止めたのかと不安になったから……それだけ。
それだけ、だけれど。
それは私に大きな衝撃を与えたのだ。
この結婚を、この先どう進めていけばいいのか、混乱した。

