紬さんは、慌てたように私のあとを追いながら、手早く服を身に着けた。
「今日は、結婚式の最後の打ち合わせだね。父さんのところにも行きたいから……忙しいね」
「瑠依?」
「あ、父さんの事故のことは、警察の人と弁護士さんが教えてくれたけど……もしかしたら、私が狙われていたのかもしれないんだね」
「……瑠依」
「常務さんだか何だか知らないけど、会社を背負うって、そんなに簡単なことじゃないのに……父さんに大けがをさせてまで欲しいものなのかな」
暮らし始めて数日のキッチンはまだ使い慣れていなくて、コーヒーメーカーにフィルターをセットするのにも時間がかかる。
粉を計量スプーンで測るのでさえおぼつかなくて、小刻みに震える手元から、コーヒーの粉が床にぱらぱらと落ちていく。
「ご、ごめんなさい……まだ、慣れてなくて、あ、今すぐきれいにするから……」
床拭き用のシートを取りにいこうとすると、私の背後にいた紬さんが私の腕をつかんだ。
「瑠依、そんなのあとでいいから」
「でも、早く拭かなくちゃ」
「いいからっ」
まだ夜が明けきらない薄暗い朝、紬さんの大きな声が響いた。

