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その後、麻酔から完全に醒めた父さんに「明日また来るから」と言って病院をあとにした。
完全看護の病院だというのに、彩也子さんは父さんの側に付き添うと言って譲らなかった。
葉月という名前を使って特別室に入院している特権だろうか、付き添いにいい顔をしない看護師さんたちを前に「私は仁一郎さんの側から離れません」と強気な言葉でおしきった彩也子さん。
私が「父さんのことを、お願いします」と言って頭を下げたことも、彩也子さんにとっては大きなことだったかもしれない。
これまで、私に遠慮して父さんとの関係を隠していたはずだ。
小さな頃から私の身の回りの世話をしてくれ、その一方では子会社で働いている父さんとおじい様との橋渡し役として気を配ってくれた。
彩也子さん自身の人生を二の次にして私達親子のために大切な時間を注いでくれた。
母さんと別れて気落ちし、おじい様の後継者から外された不甲斐ない姿だったはずの父さん。
決して格好いいとは言えない姿を見続けていたに違いないのに、彩也子さんにとって父さんは、大切な人となっていた。
いつから二人の距離が近づいたのかはわからないけれど、彩也子さんと父さんがお互いを見遣る視線からは、それほど最近からではないように思える。
父さんは、一旦眠りにつき再び目が覚めた時、すぐに「彩也子……?」と呟いた。
思うように動かす事が出来ない体に顔をしかめ、視線だけをさまよわせた。

