父さんの心情を察することもなく、自分のことばかりを考えていた短くない日々。
「父さん……」
父さんの目じりに残る涙の痕をそっと指先でぬぐうと、ほんの少しだけ唇が動き、笑ってくれたような気がした。
私だと、気付いているのかな。
これまで娘らしいことを全くしてこなかったのに、それでも、私がここにいることを喜んでくれているのだろうか。
その時、病室のドアが開き、お医者様らしい男性と、看護師さんが足早に入って来た。
「先生、さっき、目が覚めたんですけど、また寝てしまったようで……」
お医者様は、彩也子さんの言葉に軽く頷くと、父さんの脈をとったり、容体をみている。
「まだ完全に麻酔がさめていないんでしょう。……こちらは、娘さんかな?」
「あ、はい。娘の葉月、いえ、江坂瑠依と申します」
「こんにちは。主治医の百舌です。お父さんには、しばらく入院していただいて治療とリハビリを受けていただきます。詳しいお話はのちほどしますが、命に別状はありませんよ」
「あ、ありがとうございます」
50代くらいだろうか。
スラリと背の高い、白髪混じりのお医者様は優しく笑ってくれた。

