「初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。瑠依さんと入籍させていただきました江坂紬と申します。これから、よろしくお願いします」
固い声と緊張感みなぎる表情の紬さんは、何度も父さんに頭を下げている。
やっぱり、奥さんの父親という存在に緊張しているのだろうか?
父さんが事故で大けがを負っているというのに、紬さんの姿にときめいている。
おじい様たちによってかなり速いスピードで進められている私たちの結婚。
本来なら許可を得るべき父さんへは、挨拶どころか私からは何も伝えていない。
特殊な状況だったとはいえ、紬さんにしてみれば、礼儀に反した展開に心苦しい思いがあるのだろう。
これまでも、私の両親への挨拶はしなくていいのかと、何度も聞かれたけれど、精神が落ち着かない父さんが紬さんと会ってくれるのかもわからなかったし、母さんに至っては、今では再婚して海外で生活している。
そんな二人が、私の結婚相手からの挨拶を望んでいるとはどうしても思えなくて、曖昧に濁していた。
だけど父さんは、私の旦那様が「紬」という名前だと知っていたし、結婚式にも出るつもりでいてくれた。
笑顔を向け合っても、深い話は一切してこなかった私たち父娘なのに、私のことを、ちゃんと気にかけてくれていた。
それなのに……私はなんて冷たい娘だったのだろうかと、苦しくなる。
「お、男前でしょ? それにとても優しいし、私のことを大切にしてくれるの。だから、安心して」
えへへ、と笑いながら呟く私に、父さんは口元を緩めた。
弱々しいけれど、私の手を握り返してくれる。
「つ、紬さん……瑠依を、ちゃんと、愛して、やって、ください」
途切れ途切れ。
声を詰まらせながら、父さんはそう言った。

