あの日の紬さんと彼女の様子を思い浮かべると、何故か胸が痛い……というのはきっと気のせいだ。
確かに紬さんは格好良かったし、見た目だけで言えば私の好みであるのは間違いないけれど。
いくら政略結婚だとはいえ、私以外の女の影がちらちらしている男性との結婚なんて論外だ。
うん、無理無理。
たとえキスが上手で抱きしめられた腕の中が心地よすぎて離れたくなかったと……そう感じたとはいっても。
無理なものは、無理なのだ。
自分に言い聞かせるように、心で何度も繰り返すたび、切なさが瞳の奥を熱くするのも。
きっと、気のせいだ。
だけど、いつの間にか『江坂さん』から『紬さん』へと呼びかけが変わっている自分に気付いて照れくさくなる。
まさか、彼のことが気になっているとか……男前だし……?

