1、目を使え 


 ママはあたしによく言ってた。

 恋愛に一番使うのは、目よって。

 目を使う?

 あたしは首を傾げる。

 そう、一番雄弁なのは瞳よ。その色や表情で、何よりも正直に気持ちを表現するのよって、ママは言う。

 下手なお喋りより、ただじっと相手の目を見詰めなさいって。

 あたしはまだよく判らなかった。

 でも彼に出会った時。

 あたしの瞳の表面にはとろりと水分が張り付き今にもぽたりと零れ落ちそうになった。

 目が離せなくて困った。

 彼は遠くで笑っている。

 友達に囲まれている。

 こっちなんて気付いていない。

 こっち向け!あたしは命令形で祈る。

 遠くて言葉は届かない。

 だけど、確かに瞳なら。

 きっとこれ以上ないってくらいに上手に表現してるはず。

 ‘あなたと話したいの’

 ‘こっちに来てくれない?’

 ‘あたしに笑ってくれない?’