「神永。日直よろしく」

 ちなみにあたしは、入学して三週連続日直をしている。

 黒板を消していると後ろから

「ねえ知ってる? 体育の時見たんだけどさあ。神永さん体中傷だらけだったよ」

「あれじゃん。虐待ってやつ」

「可哀そうー」

 ならどうして笑う?

 高校に入学してもやはり、あたしは虐げられる存在でしかない。

 入学と同時にばあちゃん家に引っ越したからまだましだけどさ。

「全然喋んないよね」

「でもパシっても文句言わねーし、いんじゃね」

「ひっどーい」

「そうそう。神永さんて名前文っていうんだって。古臭くていかにもって感じ」

 あたしは後ろを振り返り、黒板消しを投げた。

「ケホっ。ちょっと、サイアクー。汚れたじゃん!」

「何あいつ。狂暴じゃん」

 そのまま席に着くが、女子数人に囲まれた。

「どういうつもり?」

「もしかして名前、コンプレックスとか?」

「なんか言いなさいよ!」

 パシン

 頬を殴られた。

「キモ。反応ないし」

「あれじゃね。殴られ慣れてんじゃん?」

「なるほどね。虐待されてんだもんね」

「親にも存在否定されてるやつが学校来てんじゃねーよ」

「なにしてんだー。席つけー。出欠とるぞー」

 やる気のない担任の声で平穏が訪れる。

 ここ数年ではじめて手を出したかもしれない。

 だって名前は。あたしの名前はあたしが生きてていいっていう、たった一つの理由だから。