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試写室を出て、ロビーに向かう私達の前を、別の試写を終えたらしい面々が通り過ぎようとした。

「あ」

小さく呟いた声に見やれば、そこにいたのは、舞華さんに嵌められたあの時のプロデューサー。
ヤバい、と思う前に、バッチリ目が合ってしまった。

「あー、BNPの……」

「その節は、失礼しました」

何か言われる前に頭を下げる。
さすがにBNPの社員として、何も言わないままには出来ない。

「はぁ?何だよ今更……」

不機嫌な声で言った相手に、朔が抗議しようとしたのを察して目で止める。

城ノ内副社長は試写室の中でまだスポンサーと話をしているけど、現れたらまた話がこじれそうだし。
早々と乗り切ってしまいたい。

「本当に、失礼しました……」

再度頭を下げて謝る私に、プロデューサーの後ろにいた男性があっと声を上げて、驚いたように声をかけてきた。


「あれ、雪姫ちゃん!?雪姫ちゃんだろ!!」


ぱあっと笑顔になった相手は、華やかなオーラで、一目で特別な人物だとわかる。
端正な顔立ちに均整のとれた、締まった身体。
朔が彼を見て驚く。

「わ、松坂龍……」

俳優――松坂龍だ。
デビューからガンガンとのし上がり、38歳の今では、出るドラマは視聴率新記録、映画はロングランというスターダムまっただ中な俳優。
あとで聞いたところによると、朔の憧れの人らしい。


「え?龍さん、このマネージャーとお知り合いで?」

急にプロデューサーが私と松坂龍を見比べて、落ちつかなさげに問いかけた。
泣く子も黙る大スターが、私を親しげに呼んだことに明らかに動揺している。

「雪姫?」

朔も興味深げに眺めてきた。