「本当に、いいんですか」

見上げた彼の瞳はもう穏やかで、私の言葉を待っているのがわかる。

「何度も言わせるな。お前がいい」


二度と。
触れられないことを覚悟した。

「皇……」

この腕も、このキスも、全部無くしたのだと思った。

「皇……!」

「ああ、ヤバいな。一度吹っ切るとこんな気持ち良いもんか」

ふ、と耳元に囁かれた艶めいた声に、私は涙を零す。
彼はその指で私の唇に触れた。
その熱を孕んだ視線に、背中がぞくりと震える。

彼は私の涙を指で拭って、クスリと笑った。

「好きな女に呼ばれるとゾクゾクするんだな。本当にお前の言った通りかも」

「……へ?」

「俺はドMなのかも」

絶対、嘘だ!!

「あなたは間違うことなき、真性のドSですっ!!」

城ノ内副社長――皇は笑って、私に唇を寄せた。


「お前が呼んでくれるなら、この名前も良いかもしれない」


なんて言うから。


「何度だって呼んじゃいますよ。……私以外に呼ばれても、あなたが泣かないように」

「泣いてねえよ、馬鹿」


私ももう、遠慮しない。