シンプルなインテリアは相変わらず。
けれどテーブルの上だけ、意外にも灰皿に山となった煙草の吸い殻と空き箱、ビールの缶が散乱していて。
いつもきっちりして居るはずの彼にしては珍しい、とそれを指摘したら、「お前のせいだ」とかすかに呟かれた。
私を突き放したことで少なからず彼も動揺したのかと驚いた。


前にこの部屋を出たときには、もう戻れないことを覚悟してた。

私は城ノ内副社長の部屋を見回して――


「……重い」

「えぇええっ!?
だったら下ろしてくださいよぉっ!!」


はい私、現在彼の部屋で、お姫様抱っこをされております。
正しくは病院からこれで連れて来て貰ったという、とんだ贅沢者です。

「嘘だよ。病人なんだから大人しくしとけ」

彼は苦笑いしてソファに私を下ろす。
けれどその腕を私の腰で組んで、抱き締めるように一緒に座った。

「あの、城ノ内……」

「皇」


私の耳に響いた、落ち着いた声。


「皇って呼べよ。お前がそう言ったんだろう」

え。

「えぇええー……?」

ど、どうしちゃったんだろう。

「何だよ、あんな啖呵きっといて」

「だって、良いんですか?」


さっきはあんな風に城ノ内副社長を怒鳴りつけたけど、本当はそんなに簡単なものじゃないってことはわかってた。
ずっとそばで見ていたからわかる。
彼の中の暗闇はもっともっと根の深いものだってこと。
ただ、認識を改める一つのきっかけになってくれたら良いとは思ったけれど。