君の名を呼んで

***

「胃潰瘍寸前。穴空くとこでしたよ。……芸能界ってそんなにストレスなの?」

真っ白い天井と、壁。
大学病院の病室ーーのベッドの中。もう居たたまれなくて、頭から布団を被りたい。
目の前の白衣の男性医師が、カルテを片手に端正な顔立ちを呆れ顔にして私を見下ろした。

「すみません、冴木先生……」

実は同じような体調不良で、何度もお世話になっていたりする。
ここまでひどいのは今回が初めてだけど。

「梶原さん、そろそろ入院してみる?少しは自分を労りましょうね」

「うう、入院イヤです。自分に甘く!極甘になります!」

うぅ、美形な先生だけに視線がキツいわ。

「終わりましたよ」

先生が廊下に向かって声をかければ、城ノ内副社長が病室に入ってきた。

主治医の先生を見て、

「相変わらず売れそうな面と良い体してんな。うちに入らねぇ?」

などとスカウトする。
く、私が苦しんでるっつーのに!

けど私も彼を初めて見た時は病状を訴えるのを忘れて第一声、「芸能界に興味ありませんか!?」だったな……。


「ごめんですよ。芸能界は体に悪いって、そこに症例が居る」

先生はクスリと笑って私を見た。流し目が色っぽい。
うぅ。本当にウチの会社に来ませんか。
私達の企みなんて気にも留めず、白衣の美形医師は城ノ内副社長に視線を送った。


「それとも彼女のストレスの原因はあなたかな。……くれぐれもお大事にね」

ぎゃ!

それはそれは綺麗な微笑みと共に、冴木先生は爆弾を落としていって。

一気に空気が変わった。
気まずい。な、なんか、別の話題。

「城ノ内副社長も冴木先生とお知り合いなんですか?」

確かにここはうちの会社から近いから、なにかある時は来ててもおかしくないけど。
副社長は我に返ったように私を見て答える。

「ああ、今のレナの弟。昔っからスカウトしてんだけど、全くなびかねぇんだよな」

レナって、撮影所で会ったモデル兼女優のレナ?
なるほど、美形なわけだ。
世間は狭い。