「え…….?」

視界の端に映った、私の肩から外された手を掴む腕。
信じられない思いで、見上げた先に居たのは。

長身に溢れる黒髪。綺麗だけど鋭い横顔。


「……城ノ内副社長」


なんで?


「じょ、城ノ内君」

明らかにプロデューサーの顔色が変わっている。
……城ノ内副社長、どんだけ評判悪いのかしら。

なんてズレたことを思いながら立ち尽くす私を、副社長が背後に庇った。


「それにこれは非売品なんですよ」


彼の表情は見えない。
けれどその顔を見たプロデューサーが「ヒッ」と引きつった声をあげる。

「いや、ならいい。失礼するよ」

半ば悲鳴に近い声音で相手はそう言って、いま降りたばかりのエレベーターへ戻って行った。

どうして?

私は助けて貰ったことが信じられず、プロデューサーが立ち去った後も動けずにいて。
城ノ内副社長が私に背を向けたまま問いかける。

「お前、何やってんだ」

「どうしてここに」

質問に答えずに問い返せば、副社長はこちらを振り返って、眉をしかめて答える。

「すずから連絡があったんだよ。お前が一人で残ったから心配して」


ああ、そうか。それで納得した。
すずは鍵に刻まれていた部屋番号も見ていたんだろう。