基本、城ノ内副社長は慕われてるのよね。
面倒見良いし、格好いいし、どこいっても堂々としてるし。口と態度は悪いけど。
だから社内外、色々な人に知られているし、そんな人に私みたいな毒舌叩く社員は珍しいのかもしれない。

そんなことを考えながら、車を停めてカフェに向かえば、朔は撮影スタッフと話をしていた。
彼が私を見る。

「雪姫、撮影こぼれてるって」

どうやら機材トラブルで、予定時間を大幅にオーバーしているらしい。
てことは、この後の今日の仕事全てがズレるってこと。

「すぐにスケジュール調整します」

私は手帳を開いて携帯を出す。
うちの稼ぎ頭だけあって朔はビッシリスケジュールが詰まってるんだ。

映画にドラマに雑誌の撮影、CM、テレビ出演……。
今日の予定はこのドラマ撮影と雑誌の取材と……。

「あ、雪姫。午後の……」

朔が言いかけるのを察して私は頷いた。

「夕方のオールラッシュはこちらで観るんですよね?雑誌の取材をずらしてもらいます」

私の言葉に朔が驚いた顔をした。

「え、何か違いました?」

私が言ったのは最近クランクアップしたもう一つの映画のことだ。

「いや、オールを止めろって言われるかと」


ラッシュっていうのは撮影した映像を荒編集したもので、その試写そのもののこともそう呼ぶ。
とりあえず映像を繋いだものだから、音楽すらついていない、ほんの初期段階ってことも多い。
一般的に役者は撮影が終わったら、アフレコとか例外が無い限りは、とりあえず役目は終わり。
つまり、本来なら俳優の朔がスケジュールを削って、わざわざ試写室や編集室で観る必要はないんだ。あとからDVDやムービーを送ってもらったりできるしね。


「わざわざ予定に入れるくらいだから、どうしても観たいのかと思って。
朔の初主演映画だし、撮影の時も随分監督と作り込んでたって聞いてますし……違いますか?」

私の言葉に、朔はゆるく口元を綻ばせた。