君の名を呼んで

あんなに自信満々で、傲慢なくらい強引な城ノ内副社長からは、考えられない繊細さ。
彼の哀しさを想えば、たまらなくなって。

「……何で私に話してくれたんですか?」

社長の顔を見て聞く。
彼は苦笑を浮かべていた。

「毒リンゴで眠りにつきっぱなしな白雪姫は、城ノ内の方なんじゃないかなって。梶原ちゃんなら、アイツを目覚めさせることが出来る気がするんだ。……なんてね」

社長も大概ロマンチストだわ。

……そうだろうか。
そうならいい。
彼の悲しみが少しでも癒えたらいい。


「私にも、できることはあるんでしょうか」

ふと零れた言葉に、社長が笑った。
副社長と並んで人気のある、端正な顔が綻ぶ。

「いい加減目ぇ覚ませ!てどつくことじゃない?毒リンゴ吐き出すかもよ」


んなバカな。
でも何となく、社長の言いたい事を察して。
私は静かな気持ちで彼を想った。


――と、


「雪姫、まだかよ」

煙草を吸いに出ていた城ノ内副社長が戻ってきた。
私と社長は思わず目を見合わせてしまう。


「あ?何だよ」

「……な、何でも!」

私の挙動不審さに、彼は呆れた顔をした。社長を軽く睨む。

「真野、人の女に手ぇ出すなよ」

「あはは、城ノ内じゃあるまいし」

すみません、なんか軽くヘコむんですけど!!
城ノ内副社長は大して気にもせず私へ言う。

「どうせまたしょーもない話でも聞いてたんだろ。隠し事ならもう少し上手くやれ」


うぅ、自分の演技力の無さが恨めしい……。