君の名を呼んで

「皇紀が居なくなって、城ノ内は彼の後を継ぐようにモデルになった。家族や、友人や、周りに強く勧められてね」

“――あなたならできる。だってコウの弟だもの”

「だけど周りが求めていたのは“城ノ内皇”ではなかった。皇紀――“コウ”の身代わりをさせたかっただけだったんだ」


『コウ』と呼ばれてその目に映されていたのは皇ではなく、彼の兄。
そこに彼は存在しない。

『コウはそんなことしない』
『身代わりのくせに』
『コウはもっと上手かった』

そんな言葉を浴びせられて。

「“コウ”はあまりにも存在感があったし、その死は突然過ぎて、皆受け入れられなかったんだろうね。
けれど、城ノ内は生きてるのに存在を否定された。ただ双子で、そっくりだったからって」

私は言葉も出ずに黙って聞いていた。

「皇紀を誰よりも理解して、自分の半身であったはずなのに、城ノ内は何よりもそれが苦痛になった」


あの人の、伏せた瞳が。
独りで立つ背中が。

私の脳裏をよぎる。


「城ノ内は耐えられなくなったんだ。
『“コウ”と呼ばれるたびに、自分が自分じゃなくなる気がする』
そう言ってモデルを辞めた」