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「……あっ、城ノ内さぁん」


またか。


会議室の前で、私は硬直。
ドアを開けなくてもわかる。
『真っ最中』だ。

城ノ内副社長は、自分を名前で呼ばれさえしなければ、がっつり肉食。
来るもの拒まず、食い散らかす。


だから、イヤなんだ。

だから、言えないんだ。


好きだなんて。


扉の向こうで、女の声が彼の名を紡ぐ。

「コウ……っ」

「やめた。出てけ」

「(はあ!?)」


あ、私の思考と彼女のセリフ、かぶった。

「名前、呼ぶなってんだよ。萎えた」

え、最中でもダメなの?
どんだけ自分の名前嫌いなの?

私は茫然として、そこから離れるのも忘れていたなら。
ガチャッといきなり扉が開き、中から飛び出してきた女子社員とバッチリ目があってしまう。
彼女は私を見て驚いた後、思いっきり私を睨んで去って行った。

え~。私のせいじゃないのに。


「なんだよ雪姫。覗きか」

諸悪の根源が、飄々と言う。