「二ノ宮さん、お願いしまーす」

スタッフの声。
タイミングの良いことに、朔の出番だ。

「ほらっ朔、行かなきゃっ!!」

セットに入っていく彼を見送っていたなら、後ろから副社長に腕を掴まれた。

「どーゆーコトだ、あぁ?」

彼はそのまま席を立つ。
周りのスタッフはちらりとそれを見送るだけで、顔にはありありと『助かった』って安堵が浮かんでる。
うう、すみません。

そのまま私は彼によって、セット裏に引きずりこまれた。

「あの、ここでそういう話は」

「誰がセフレ?そう思ってたから俺を避けてたのか」

一瞬で私の葛藤を見抜いた城ノ内副社長は、強く強く私の腕を掴む。

「痛い、です」

私は彼の顔を見上げた。
強い視線に、逃げられないと悟る。

怒ってる?
なんで?

わからなくて、ただ彼を見上げて口を開いた。


「別に気にしてません。
朔には気付かれたけど、誰にも言わないし」

私には彼の怒る理由がわからない。
だってそうでしょう?

「安心して下さい、私勘違いなんかしませんから。あんなのただのお遊びですよね」

声が震えるのを必死に抑えながら、なるべく彼から目を逸らす。

「わかってます。
私は城ノ内副社長にとってはただのオモチャで、それ以上でも以下でもないって」


ああ、ダメだ。
我慢してたはずの涙は、簡単に零れ落ちて。
それを城ノ内副社長に見られていることが、ひどく落ち着かない気分にさせられる。