君の名を呼んで

「それでも誰かがやらなきゃならないなら、
雪姫を泣かせていいのは俺だけだろ」


「――!!」


どうしよう。


今、凄く、ずきゅんときてしまった。

私のために、一人で悪役をかって出てくれたんだ。
ちゃんと信じていてくれた。
嬉しい……。

視線の先で、煙草に火を点けた城ノ内副社長は、思い出したように言った。

「あの鈍感女が朔ごときの口説き文句にフラつくわけもないしな」


……すみません、フラつきかけました!!
全力で謝りたい、もう。

にしても“朔ごとき”って。
そして私は鈍感女ですか!?
そんでもってここは禁煙だあぁっ!

……なぁんて。
たくさんの言葉が頭を回って。
自分でもどうしたらいいのかわからない。

私はふっと体の力が抜けるのを感じながら、さっきとは別の涙をこぼして。


ごめん、朔。

やっぱり私は、城ノ内副社長が……。



「――盗み聞きとはい~い度胸だなあ、雪姫」


う……。


恐る恐る顔をあげたなら。
そこに見たのは呆れた顔の城ノ内副社長。
こ、これは素直に謝るべきだよね。

「す、すみませぇん……」

けれど彼は私の涙を見て、ちょっと驚いた顔をして。


「……ちょっと来い」


私の腕を掴んだ。