君の名を呼んで

デスク下に屈み込んだ私の姿は二人に見えないらしく、図らずも盗み聞き状態になってしまう。
わ、わざとじゃないんですけど!

「うるせぇよ」

副社長の冷たい声が響いた。
途端にあの惨めさが蘇ってくる。
な、泣きそうだよ、もう。

ところが。


「――アイツのためだ」


城ノ内副社長の意外な言葉が、私の涙を止めた。


「あそこで会社のトップの俺らがヘタに庇ったら、アイツは余計疑われて孤立するだろ。他の社員達の前で、ハッキリ本人に否定させんのが一番なんだよ」


ウソ。

あれは、私のためだったの?

冷たい言葉も
冷たい態度も
開いていた扉も
わざと?


私は身を乗り出して、二人の姿をこっそり見た。


「……お前、それで梶原ちゃんがあの記事を肯定してたら、どうするつもりだったんだよ」

社長が少し落ち着いた様子で問いかける。
城ノ内副社長は煙草を取り出して、鼻で笑った。

「あり得ねぇんだよ。
もし本気で朔に惚れてたとしても、あんなに仕事に一生懸命なヤツが、自分の欲にふらふら突っ走るかっての」


……!


「その割には目も合わせないし、俺はてっきりお前が梶原ちゃんを責めてるのかと……」

社長の言葉に、城ノ内副社長が苦笑いしながら呟いた。


「俺だって好き好んでアイツを苛めるかっての。泣き顔なんか見てみろ、それで手加減したら意味ねぇんだよ」


だから、私を見なかったの……?