君の名を呼んで

すずは真っ赤な顔で彼を睨んで、
「おはようございます……」と悔し気に言った。

朔はニコリ。
ああ、朔ってすずにはこうなんだ。


「朔、あんまりすずを虐めないで。ところで、この台本て朔の?」

台本を示したら、彼は首を横に振った。
朔のマネージャーも同様。


「ああ、でも練習なら付き合うよ?すず」


いきなり振り返った朔の言葉に、彼女がごっとん、と本日三回めのバッグ落下。
からからから……と、リップが転がっていく。


「……に、に、二ノ宮先輩の馬鹿あああっ!!」


すずが叫んで、逃走した。


「……朔」

「うん、やり過ぎた。ごめん」


苦笑いした朔。
彼は優しく笑ってすずの消えた方向を見ていたけれど。

ふと私の持っている台本のナンバーを見て、あ、と呟く。

「雪姫、これ城ノ内さんが探していると思うよ」

え?

「これ、城ノ内副社長のなの?」

「いや……。まあとにかく、城ノ内さんを探すといいよ。今日はもう社内に戻ってるから」

え?

何か知っているような朔。
けれど、何も教えてくれない。


私は頭を捻りながら、城ノ内副社長を探すことにした。