君の名を呼んで

「失礼します」

今日は珍しく、社長室の壁面ガラスが白い擦りガラスになっている。
ノックをしたなら、中から社長の許可する声が聞こえた。

「失礼します。あ、すみません、お客様でしたか……って蓮見君!」

そこに居たのは真野社長と蓮見君、それに可愛い女の子だった。
彼女は確か蓮見君の妹さん。

「久しぶり、雪姫さん」

笑顔を向けてくれる彼に近寄って挨拶する。


「本当。元気だった?」

「うん。その節はご迷惑おかけしました。あ、妹は知ってるよね」

「うん、病院で会った。莉緒ちゃんだよね、こんにちは」

彼女はにっこり会釈してくれた。
真野社長が口を開く。

「梶原ちゃん達の結婚式でジェイズが歌ってくれるって。莉緒ちゃんは美大生で、装飾を手伝ってくれるんだよ」

「え!?ホントですか、凄い……!」

言いかけて気付く。
真野社長を部屋の隅に引っ張って内緒話。

「ま、真野社長、ジェイズなんて出演料もの凄いんじゃ」


……セコイなんて言わないで!
だって気になるとこなんだから!

ところが、当の蓮見君が笑い出した。

「安心してよ、雪姫さん。今回はタダだから。芹沢社長にも了解を得てるよ。『賠償金のお釣りよ』だって」

「芹沢社長が……?」

ビックリ。
でもなんだか皆の気持ちが嬉しくて、くすぐったい。

「じゃあお言葉に甘えて、思いっきり楽しみにしてる!」

「うん、まかせて」

私はニコニコと蓮見君と莉緒ちゃんに微笑んだ。