君の名を呼んで

その後、事情を知らされたらしい朔から電話があった。

『気にすんなよ。あんなの話題作りによくあることだろ』

ごめんね、と謝る私に、彼は笑いながら言ってくれた。
幸いというか、当たり前というか、朔には何のおとがめもなく、いつも通りに仕事に専念できるように真野社長が配慮してくれたよう。

「でも朔は大事な作品を控えてるし、暫くマネージャーは他の人に変わってもらうことになったから……」

『代理マネの代理?』

……。

二人して、吹き出した。

「そうだね。何かヘン」

クスクス笑っていた私に、急に朔の真面目な声が聞こえてきた。


『俺、お前じゃないとダメだから』


ーーえ?


ドックン!!

心臓が派手な音を立てた。

「あ、あ、マネージャーね。びっくりした、ドラマの台詞みたいだった」

照れ隠しにそう言えば、電話越しに朔は小さく溜め息をついた。

『それもあるけど。それだけじゃない』

ん?


『やっぱり城ノ内さんは止めとけ。俺なら雪姫を疑ったりしない』

「それって……」

『告白してんの』


驚きと。
……かすかな予感が現実になった緊張。

朔はずっと私を見ていてくれた。
そりゃあ、全く気づかなかったわけじゃない。

でも、知らないふりをするべきだと思ったーーそれを崩されて。

優しい声。
思わずすがりたくなってしまいそうな。


「……朔」

『考えておいて』

電話が切れても、私は動くことが出来ずにいた。


朔の言葉が嬉しかった。
でも同じくらい、城ノ内副社長の顔が頭から離れなかった。