スタッフルームに入ってまず目についたのはノートパソコンと両側に積まれたプリント類。
近づけば台本の直しや、絵コンテのコピーに書き込みしたもの、沢山の資料。
と、差し入れなのか、お菓子の山。

帝さんは私の視線にああ、と笑った。

「考えるときは、どうも糖分ないとダメなんだよね~」

「皇と同じですね。彼もあれで意外と甘いもの好きなんですよね」

煙草を吸ってるイメージばかりなのに。
私のデスクに入ってるチョコ類をたまにねだりにくるのよね。

私が皇のことを持ち出したのが気に入らなかったのか、帝さんは笑顔を引っ込めて、私を見た。


「雪姫ちゃん、バカなの?こないだ俺にあんなことされたのに、またノコノコついて来て」

おもわず緊張しかけて、けれど思い出す。
言わなきゃ、ならないこと。


「皇はもう、モデルは辞めたんです。エアリエルは事情があって、私のために一度だけやってくれたことで」

「は……。それを俺が信じるとでも?
エアリエルは一度でも、皇はまたランウェイに立つ。あいつは逃げられないんだよ、皇紀から」

茶金の髪が揺れて、窓からの光に輝く。

どうしたら、わかってもらえるの?
それとも、私が説得しようとすること自体、間違ってるのかな。


「皇は逃げるんじゃなくて、向き合うことにしたんです。皇紀さんのこと、自分のこと。自分の居るべき場所は、BNPだって言ってくれたんです」

私の言葉に、帝さんが振り向いた。

「簡単に逃げられるわけない。自分の半身を無くして、母親にスペア扱いされて、父には見捨てられ、兄は劣等感から無関心。俺たちがそうさせたんだ。俺が、皇を追いつめたんだ」


「みかど、さん?」


その言い方に、気がついた。
帝さんは……。