何ヶ月にも渡る映画でもなく、スケジュールがタイトなテレビドラマでもなく、たった一日のCM撮影。

けれどすずにとっては多分、今までに無いくらい、充実した時間だったに違いない。
それをさせたのは、帝さんなんだ。

皇はこんな帝さんを知ってるのかな。
帝さんも、今の皇をちゃんと知ってるんだろうか。
仕事の鬼なところは、さすが兄弟。

なんて笑みが零れたところで。


「雪姫ちゃん、ちょっと付き合ってよ」

「え?」

帝さんが、私の手を掴んだ。
そのままどんどん奥へ向かって行く。


「あっ、監督今日の分……」

「ラボ入れとけ。データの変換時間聞いといて」

「もう上がってる分どうします?」

「ポスプロに回して。後で電話する」

すれ違うスタッフに次々と指示を出しながら、よく立ち止まらずにいられるもんだ。


「監督、カット割り表の最新版です」

「後で。スタッフルーム使うよ。誰も通すなよ」

ボケッと聞いていた私は、聞き捨てならない言葉に目を剥いた。

『誰も通すな?』

身の危険を感じて足を止めようとしたけれど、帝さんは私を見て意地悪く笑う。

「まさか、こんなスタッフだらけの中で襲わないって。それとも、そーゆーのがお好み?」

「そんなわけありませんっ!」


危険だってわかってる。
けど密室ったって確かに周りはスタッフだらけ。
帝さんの言うように、まさかいきなり襲われたりはしないと思いたい。


それに、帝さんにわかってもらわなきゃ。
皇はもう、ランウェイには立たないってことをーー。


「さあ、おいで?白雪姫」


私は帝さんの後について、部屋へと入ったーー。