君の名を呼んで

「帝は皇紀を可愛がってたから。代わりに“コウ”になっておいて、なのに逃げ出した俺を許せないのかもしれないな」

その、哀しそうな顔に、私は言葉を失った。


また、こんなところまで。
“コウ”が皇を追ってくる。

彼はどれだけ苦しむんだろう。
その呪縛は、そんなにも根が深いの?


ーーだけど皇は、桜里に問いただされた時のような顔はしなかった。
煙草を出しかけて、けれどそれを止めた。

私を見て微笑む。


「それでも俺はもう、振り返らないからな。帝にも、いつか分かってもらうさ」


彼の腕が私を緩やかに抱き締めて。
甘いキスを落とした。
私も同じように返す。


良かった。皇は、大丈夫だ。
なんとなく、そう信じられる気がして。



「……ところで、銀座の女って何ですか」

「……そうくるか……」