なんで。
なんでそんなことまで知ってるの?
私のことなんて興味ないくせに。
落ち込んだことだって、どうして見通すの。

そうやってこの人は、いつだって無意識にギリギリで私の心を引き留めるんだ。

もう嫌いにならせてよ。
これ以上、好きでいさせないで。

私は潤みかけた目を伏せた。
ここから逃げるための言い訳を探す。

「私、朔を迎えに行かなきゃならないので。ほんとに、会議室やら資料室やらに女連れ込むのだけは止めて下さいね」

力無く立ち上がったなら、副社長の声が響いた。

「社内じゃなきゃ、いーわけ?」

「……なんで、そんなこと私に聞くの」

もう、嫌だ。
このひと、嫌だ。
サラサラと髪を風に揺らして、切れ長の瞳で私を見つめる副社長は、文句なしに格好いいのに。
その性悪さには文句しか浮かばない。


「なんでってさ、お前の気持ちを聞きたいから。俺が他の場所で他の女とヤッてもいいの?」

どうして。
どうして、聞くのよ。

「私が嫌だって言ったら、止めるんですか?」

そんなわけないじゃん!
私はキッと、副社長を睨みつけた。