君の名を呼んで

彼は私が恐れていた言葉を口にする。


「それじゃ、ダメだよ」


結局、私は桜里について行くことは出来なかったけど。
やっと彼に娘として向き合うことができたし、悪いことばかりではなかった。

それに。


「ジェイズは皆に愛されてるんだよ?凪君たち、他のメンバーはどうするの」

カタチは皆ちがうけど。
それでも私も芹沢社長も、ジェイズを守ろうとしたのは確かで。


「こんなことで、辞めて欲しくない。
私に罪悪感があるなら余計、上にあがっていってよ」


私がマネージャーという仕事を選んだ理由、続けたいと思った理由。
彼らを守りたいから。輝いて欲しいから。

その居場所を守り続けて欲しい。
こんなことで、潰れて欲しくない。


私の言葉に、蓮見君は黙って考え込んでいて。
やがて顔を上げた。

晴れやかな顔ではなかったけれど、でも何かを決意したような、強い瞳をして。


「……ありがとう、雪姫さん」




病室の扉を出たなら、そこに芹沢社長が居た。

「あなたが貴雅を引きとめてくれるなんてね。BNPへ引き抜くかと思ったわ」

皮肉気に笑う彼女に、私は答えた。

「SRIミュージックさんは最大手のアイドル事務所だし、ジェイズを続けることが彼の為だと思ったからです。大切にしてあげて下さい」


私も蓮見君も、駒なんかじゃない。
それを、わかって欲しくて。


『俺がそう選んだからだ』


心に残っている、城ノ内副社長のーー皇の言葉。
私も、マネージャーを選んだの。

だから。守りたい。


私は頭を下げてその場を離れた。