廊下に出て、三歩目から自制は効かなくなったみたい。
いつの間にか私は夢中で走って、屋上庭園まで来た。
社員の休憩所でもある場所だけど、中途半端な時間だからか誰も居ない。
ここは私のお気に入りなのに、今はちっとも気が晴れないよ。


もう何度あんな場面に出くわしたんだろう。
何度逃げたんだろう。

傍若無人で、迷惑千万で、エロくて、傲慢で。
何で私はあんな人を好きなんだろう。

会社に入ったときには、私にとっての城ノ内皇は『鬼副社長』だった。
やがて『ムカつく上司』になって、『最低男』になった。

……で今は『嫌いになりたい男』だ。

何があったんだよ、私!!
自分で自分にツッコミたい。


でも名前を呼ばれて苦しそうに、淋しそうにする副社長を何度も見てしまって。
いつの間にか、愛おしく思う自分が居た。
あの喰いっぷりに何度もこっそり泣いたけどね。

でも、もうそろそろ、潮時だってわかってる。


『お前には関係ない』


あの時から、少しずつ。
先の見えない恋に疲れはじめていた。

まだ何もしてないのに。
まだ何も始まってないのに。


「だからもう止めとけ、私。いい加減吹っ切らなきゃ……」

「何を?」


不意に近くで声がして、私はギョッとして顔を上げる。
いつの間にか、副社長がそこにいた。