私は疑わし気な視線を向けるのに、彼は涼しい顔をしたまま。
なんだかとっても余裕じゃないの。どこがトラブル?

私はスタイリストさんにあちこち弄り回されながら、口だけは桜里に抗議し続ける。

「何を企んでるのよお~!!私ハイヒールは3センチまでしか履けません~!!」

「大丈夫。これは颯爽と歩く必要はありませんから。
せいぜいゆっくりと、焦らしてやりなさい」

え?

やがてカーテンの間から押し出された私の前には、いつの間にかタキシードに着替えた桜里が居て。
それで私は自分が真っ白なドレスを着ているのに気づく。


「桜里、まさか」

「僕とじゃありませんよ」


桜里が深く深く微笑んで。
私に手を差し伸べた。

その顔は確かに私を慈しんでいて。

彼と手を繋いだ、遠い記憶を思い出した。
それが当たり前だった、あの頃を。


「本番はまだ早いですからね」


桜里は苦笑しながらも、何か嬉しそうな、悔しそうな顔をしていて。
光の溢れる方を指し示す。

ステージの先を見て、私は目を見開いた。

桜里の表情の意味を知る。


『あれが、彼の覚悟か』


彼が隣でぼそりと英語で呟いたのが聴こえた。


ステージのあふれんばかりの光の中に居るのは。

誰よりも愛おしい、彼の姿だった。


「皇……」