君の名を呼んで

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午後から出社した私は、社長室で真野社長と向かい合っていた。


「何、これ」

真野社長が固い表情で私へ問いかける。
彼の視線はデスクの上に注がれていて、握りしめた手はそれに触れようとしない。

「もしかして、芹沢社長がBNPへの賠償請求を取り下げたことと、何か関係がある?」

疑問系なのに、確認を得ているその口調。
私は答えずに、ただ頭を下げた。

「申し訳ありません」

「城ノ内は知ってるの?……わけないよね。アイツがこんなこと許す訳が無い」

真野社長は厳しい目をして、私を見つめる。
怒っているようで、でも私を心から心配してくれている目だ。
だからこそ私は、やり通さなきゃならない。

「こんなの受け取れない」

彼の視線から逃れるように、私はもう一度頭を下げる。

「勝手を言って申し訳ありません」

「梶原ちゃん!!」

真野社長が私を引きとめようと呼んだのを振り切って。
私は聞かずに、社長室を出た。