君の名を呼んで

***

……。


何度も鳴る携帯のバイブで目が覚めた。
バッグから出した携帯の表示には“白鳥桜里”の着信履歴がずらっと並んでいる。

きっと私の事故を聞きつけて、連絡してくれたんだ。
掛け直さなきゃな……。

ゆるゆると手にした携帯は簡単に零れ落ちて、床でゴトンと音を立てた。

「う」

ベッドから這い出して、携帯を拾い上げる。
そこで、気づいた。

「皇……?」

隣に居たはずの彼が居ない。


寝室の扉に近づいたなら、皇の声が聞こえた。
携帯で話をしているよう。
寝ている私を慮ってか、いつもより抑えた声音。

けれど、ひどく鮮明に聞こえた。


「交渉はダメだったか。ああ……わかってる。けど他に方法があるか?芹沢社長の思惑に乗っかるのは癪だけどな」


ドクン、と心臓が嫌な音をたてる。
忘れていたはずの胃の痛みを思い出す。

相手は真野社長?
今、芹沢社長の言うことを聞く、って言ったの?


「馬鹿言うな。BNPにそんな余裕が無ぇのは俺が一番分かってる」


ふと見えた彼の横顔は厳しくて、今の状況を克明に表していた。